since 2005年8月12日
「っ、」
声にならない声が上がり自分の上で苦痛の表情を作る『他人の神様』をぼんやりと見上げた。
「痛い?」
おどけたように問いかければ緩く首は横に振られた。俺がこの家を訪れたのはもう一時間ほど前だろうか。
『他人の神様』である時任稔、元いトッキーから名誉ある呼び出しをくらい来てみればそこにくぼっちの姿はなかった。
うん、やな予感はしたさ。だけど同時に逃れられないと悟った。
手を引かれるまま「シャワーいる?」と意味深なことを聞かれ大丈夫と答えながら二つ並んだマグカップを横目で確認した。
生活感、二人の生きる世界。そこを神様に手を引かれながら横切る俺。信者の彼はどう思うだろうか。
そんなぼんやりとした、具体性のないことを考えていたらあっという間に寝室。
ですよねー、って声が出る前にベッドに突き飛ばされた。神様というには明らかな殺意。殺意に似た捕食者の目。
そっからは早かった。俺の上で勝手にボタンを外して勝手にするりと落ちていくトッキーがゆるりと着ていたワイシャツ。
それってくぼっちのじゃないの?と笑ったらそうだけどと平然と返ってきて凍り付く。寝取り趣味とかないんだけどなー。
でも体は正直で手と口で擦られて舐められて吸われたら、まぁ勃つよね。たぶんそこまでしなくても勃ったと思うけど。
時折目が合う切れ長の目。その目が細くなって俺にしがみついて来たときはちょっとやばかった。
なんていうか、くぼっちの気持ちがわかる的な?どっから持ってきたのかローションで中を自分でほぐしてそこに性器を押し付けて一気に挿入、させられた。
で、冒頭に戻る。苦痛の表情を浮かべる他人の神様は俺の肩に人間の方の爪を立て、固く閉じられた目には涙が浮かんでる。
浮かべられた涙の粒が頬を伝う頃切れ長の目は俺を捕らえた。
「…俺、くぼっちに殺されない?」
冗談のつもりだったが頭のどこかでは警鐘が酷く響いている。あの男の所有物に手を出したという恐怖。
しかし目の前の少年はあっけらかんとした顔をし、いつもと同じ笑みを浮かべた。
「殺させねぇよ」
意味はわからないが今はとりあえずその言葉にすがることを決めた。どうせ現状は変わらない。
動くにも中は狭く先程までの顔を思い返すと中々踏み切れない。安い蛍光灯の光がトッキーと重なって、後光みたいにトッキーの顔が暗くなる。
逃れられない事実と聞こえもしない信者の足音に怯えながら俺は『他人の神様』を貫いた。
「いい加減出てこいよ」
時任が俺のシャツを羽織ったままクローゼットのドアを蹴飛ばした。少しだけ開いていたクローゼットは蹴られた勢いで30センチほど開く。
タバコを携帯灰皿で揉み消して睨み付けるように見下す時任と、恐怖に染まる滝さんの細い目を交互に見た。
「見つかってないと思ったのになぁ」
よいしょ、とわざとらしい声をあげて服の中から脱出。汗と精液と、タバコの臭い。俺のと滝さんのと、時任の。
「タバコくせぇんだよ」
どこか少し満足そうな時任の顔。最初からそのつもりだったんでしょ、ずっと目、合ってたじゃない。
神様の汚れる姿をクローゼットに隠れて見せつけられるなんて、俺ってかわいそうな信者じゃない。
神様なんて大それた名前を付けられた彼は変態、と俺を蔑んでから赤い舌で自らの唇を舐めた。
「興奮、するかもって」
どっちが、なんて答えは口に出す必要もないと判断して、寝室から逃げ出した。
…あ、精液を拭った時任のTシャツ、クローゼットに忘れてきたかも。
ななお様/pixiv