since 2005年8月12日
そのカフェに入ったのはただの気紛れ。
仕事に行くまでの間に出来た僅かな時間を潰すために、注文したカフェラテを片手に店内を見渡せば。
「久保ちゃん、いい加減にしろよなっ」
「俺が飲むんだから別にいいでしょ?」
耳慣れた声に振り向いた先に二人の姿を見つけ、知らず笑みが浮かぶ。
「そーいう問題じゃねーよ。甘ったるそうなモンは見るだけでも嫌なんだっつの」
「気に入らない?」
「気に入らねーよ、って、アレ?」
「だって。どうする?誠人」
背後から声を掛けられびっくりしたように私を見上げる時任君ににこりと微笑みかけ、時任君が悪態を付いてる飲み物―
キャラメルソースがかかった生クリームをたっぷりと乗せられたコーヒーと、それを平然とスプーンで掬う誠人に向かって首を傾げる。
「んー、どうするって言われてもなー。困るよね?」
ちっとも困ってるようには見えない表情で私と同じように首を傾げる誠人から視線を外し、時任君に向き直る。
「誠人は困るって言ってるけど。君はどうして欲しい?」
「その甘ったるそうな飲みモンを今すぐ俺の前から消せ」
「了解」
横柄な態度で命じるように言い放たれた時任君の言葉に従い、素早く誠人の前から『甘ったるそうな飲みモン』を取り上げ、代わりに私が注文したカフェラテを同じ場所に置く。
「あーあ、取られちゃった」
「じゃあね。ご馳走様」
「おう、サンキューなアンナ」
満足気に頷く時任君に手を振り、見付けた空席に向かって歩き出した。