since 2005年8月12日
この日、時任は朝から上機嫌。
今も電車の窓の外に映る景色を物珍しそうに眺めては、時折俺を振り返り楽しげに笑うその表情だけで俺は満たされる。
そもそも事の始まりは、今朝のテレビ。
バレンタイン当日、という事もあってか最後の悪あがきとも取れるような必死さで『当店の人気商品』を盛大にアピールする店員さんと。
次から次へと目まぐるしく紹介されるチョコやら洋菓子やらを朝から大仰に褒め称える出演者の声は正直、雑音騒音以外の何物でも無かったけど。
時任が「美味そう」なんて呟くから。
都合良くその音だけを拾い上げ釣られてテレビに目を向ければ、紹介されているその店までは横浜から電車で約一時間。
「買いに行く?」
「え、いいのか?」
「いいよ。バレンタインだし」
もちろん、そんなイベントなんか無くたって。
お前が喜んでくれるなら、大概の望みは叶えてやりたくなっちゃうんだから。