narcotic

もう癖を通り越して、呼吸と同じくらい自然で、麻薬みたいに止められないもの。

「久保ちゃん、手」
「あー、ごめん」

時任の咎めるような声に、無意識に触れていた手を引っ込める。

「ごめんね」

もう一度謝れば、時任はまた何事も無かったかのように中断してたゲームを再開した。
俺は時任の側を離れて、ソファーの定位置に座って時任の後ろ姿をぼんやりと眺める。

どうやら俺は時任に触れてはいけないらしい。
らしい、というのは明確にそう言われた訳では無いから。
ただ、朝から何度と無く同じやり取りを繰り返す内に、俺は時任に触れないように触れないように、神経を集中させていた。
それが思った以上に結構キツくて、自分でもびっくり。

「久保ちゃんつまんない」

気付けば時任はいつの間にかゲームを止めていた。
思いっきり伸びをして、俺が座るソファーの隣り、では無く向い合せに俺の膝を跨ぐように座る。
人には触らせない癖にね?時任の気紛れも此処まで来ると拷問と紙一重もいい所。

「久保ちゃん、今すげー目してる」
「…………」

誰のせいよ、って責めたい気持ちを、煙草を咥えながら頑張って堪える。
これだけ距離が近過ぎると危なくて火も付けられない。

「なあ久保ちゃん、触りたい?」
「……むしろそれ以上の事をしたい気分」
「させてやろうか」

やや上の目線から俺を見下ろして、ククッと喉を鳴らし笑う時任の頬に試しに手を伸ばしてみれば。

「やっぱダメ」

指先が触れる間もなく抱き付かれ、伸ばした腕は背に回すより他に無かった。