仕方が無いから

「なあ、久保ちゃん。明日は何かあるか?」

例えば、バイトとか。
やる事はやって後は寝るだけ、って時になって、時任がふと思い付いたように言った。

「いや、特に無いけど。なんで?どっか行きたいとか?」
「……別にそういう訳じゃ無いんだけど」

無いならいい。
ちょっとだけ困ったような、ふて腐れた様な顔してそっぽを向いてしまった時任にある事を思い出した俺は 少しだけ笑い出しそうになる。

「言ったでしょ?今年は寝正月だって。俺だってたまには家でのんびりしたいし、ね?」

ご機嫌を取るように、振り払われるのを承知でその指通りのいい髪に手を伸ばせば、時任は予想を裏切って 俺にされるがままじっとしていた。
そればかりか、自分の体重を預けるように寄りかかられる。

「……ときとー?」
「カレーはもう飽きた」
「うん」
「この前読んだマンガの新刊まだ買ってない」
「……うん」
「洗剤の買い置きももう無かった」
「…………」

静寂。
時計の音だけが妙に耳につく。

「時任、前言撤回」
「……んだよ」
「俺、忘れちゃいけない用事あったみたい」

その瞬間、完全に俺に身体を預けきっていた時任の肩がぴくりと震えた。
早とちりされる前に口を開こうとする時任を制して視線を合わせる。

「買い物。悪いけど、付き合ってくれない?」
「……しょーがねーな。付き合ってやるよ、久保ちゃん」