うた

時任が唄っているのを聴くのは好きだ。
俺もよくは知らないけど、多分歌詞なんて滅茶苦茶で、唄い出すタイミングも唐突で、唄い始めも大抵は途中からだったりするけれど。
時任が口ずさむメロディーは耳に優しくて、聴いてて心地がいい。
だからソファーで本を読んでる傍らで唄われてても気になんてならないし、むしろ、

「止めちゃうの?」
「え?」

本を閉じて、時任を手招き。
素直に俺の前にやってきた時任を背後から両腕に閉じ込める。

「歌。聴いてたんだけど?」
「な、」

時任の両耳がほんの少しだけ赤くなる。
そりゃそうだよね。
俺が聴いてたなんて思ってなかっただろうし、何せ時任は唄ってる時は大概無意識に口ずさんでいるんだから。

「ね、もう一回唄って?」
「……何唄ってたかなんて覚えてねーよ」
「そう。それは残念」

何なら今度は俺が唄ってあげようか。
お前が口ずさむメロディーは、すべて俺の中に残ってるから。