ずっと一緒に居て、側に居るからこそ。
触れられないたった僅かな距離に、寂しさを感じる事もある。

【抱き寄せてほしい】

ぼんやりと目が覚めた時に感じたのは、あまり馴染みの無い微かな寒さ。
微睡みに半ば沈みかけた意識の中で薄く目を開けてみれば、自分よりも一回り広い背中が視界いっぱいに映って見える。

「寒いっつーの……」

いつもならば、両腕で包まれその温もりの中で目を覚まし、覚醒までの僅かな時間をうつらうつらとしながら過ごすのだ。
直接言ってやった事は無いが、その瞬間が一日の中でいちばん幸せで、一日の始まりなのだ。
それなのに。

(何も背を向ける事はねーじゃん……)

寂しさに恨みがましくその背中を睨み付ければ、まるでその声が聞こえたかのようなタイミングで不意に久保田が寝返りを打つ。

―え、何これ。

突然の行動に軽いパニックを引き起こしている内に、久保田の両腕が探る様な動きを見せ、ゆっくりと抱き寄せられる。

「……久保ちゃん?」

もしかして起きているのかと思い小さく声を掛ければ、穏やかな寝息が耳元を擽り、その行動が無意識である事を知る。

(恥ずかしいヤツ!)

あまりの事に暴れ出したい衝動をぐっと堪え、包まれた両腕の中で自分の寝やすい体勢を探し出す。
一日の始まりをやり直すために目を閉じた。