俺は久保ちゃんの手が好きだ。
久保ちゃんが好きだから、その手でさえも好きなのかもしれないけど。

【手】

手持ち無沙汰気味に俺の頭を撫でていた手がゆっくりと離れてく。
その手が煙草を探す仕種を見せるよりも先に、俺の手でその指ごと搦め捕る。

「……なーに?」
「べつに」

ベッドの上でごろりと体勢を変えて、掴んだままの大好きな手をじっくりと眺める。
長い指を一本一本、輪郭を確かめるように自分の手で指先で辿れば、不意にどうしようもなく食らい付きたい衝動に駆られて。

「久保ちゃん」
「ん?」
「食っていい?」

返事を待たずに、掴んだ指を口に含む。
軽く歯を立ててから、指でなぞった時と同じように舌でなぞりあげれば。

「ん、」
「どうしたの?」

不意に久保ちゃんが俺の口腔内で舌の上を滑るように指を反転させ、上顎を擽るように撫でられる。
睨み付けてやっても涼しい顔で躱されて、思うがままに動かされる指に息が出来ない。
満足に飲み込めない自分の唾液に溺れそうになる感覚は苦しいというよりもむしろ、

―キモチイイ。

「お前さ、今どんだけエロい顔してるか分かってる?」

酸欠でぼんやりした頭では、久保ちゃんの言葉を理解するのに若干時間を要する。
それでも涙に霞んだ視界で捉えた久保ちゃんの瞳の奥に、焦がすような情欲の火を見た気がして。

「久保ちゃん、シタイ」

歯形の残る指を引き抜いて、その首に腕を絡げた。