since 2005年8月12日
急激な体質の変化なんて、程度の差こそあれ割りと誰にでも起こりうるもの。
大切なのは、それを本人が何処まで受け入れられるか、ってこと。
「寝れない?」
「ん、」
「まだ明るい?」
「……気がする」
苛ついているのか、時任は短く答えて大きく寝返りを打つ。
「っと、」
「あ、悪りい」
項垂れるのが暗闇の中でも気配で分かる。
「へーき。明日にでもカーテン替えてみよっか?」
「……この前替えたばっかじゃん」
「もう一つ、遮光性の高いやつ。あったでしょ?」
時任の身に起きた、小さな変化。
―完全な暗闇で無いと眠れない。
カーテンの透き間から差し込む僅かな光でさえ入眠の妨げとなるらしく、ここ暫くの間、時任は熟睡出来ずにいた。
「つーか、何でこんな急に寝れなくなったんだろ」
「だってお前、もともとの睡眠習慣が不規則じゃない。意外と一過性かも知れないよ?」
「だったら良いんだけどさ……」
こうして話す間にも時任は決して広くは無いベッドの中、落ち着きなく体勢を変えてみたり気を紛らわせるかのように足をばたつかせてみたりと忙しない。
「そういえば久保ちゃん、前に不眠症だって言ってたじゃん」
「うん」
「こんだけ寝れなくて、辛くねーの?」
「俺はもう長いから。慣れてるし」
「慣れんな」
心なしか怒ったような口調に、久保田は失言だったかと苦笑を浮かべる。
漸く落ち着いたのか、動くのを止めた時任が不意に久保田の腕の内に収まるように身体を寄せる。
その距離はいつもより少し近い。
「あー、これなら寝れそう。つーか、急に眠くなってきた……」
「そ。それは良かった」
互いの体温に齎される心地良い安心感に、二人は静かに目を閉じた。