since 2005年8月12日
9月8日
昼を過ぎた辺りから、不意に久保ちゃんがキッチンに籠もり始めた。
やがてリビングに満ちる、甘い甘い、匂い。
「なぁ、久保ちゃん。さっきから何やってんの?」
「んー?気になる?」
俺が居るソファーからではキッチンは見えても、久保ちゃんの手元までは見えない。
素直に頷けば、久保ちゃんは楽しそうに笑いながら「おいで」と手招きする。
呼ばれるままにキッチンに赴けば、そこには見覚えのあり過ぎる大きなボール。
2週間前は白い生クリームで満たされていた、その中身。
「チョコレート?」
「ご名答」
覗き込んだ俺に機嫌よく答えた久保ちゃんが、今度は冷蔵庫を開ける。
取り出したのは良く冷えた、少し小振りの真っ赤に熟れた苺。
「はい、味見」
「……あ、美味い」
久保ちゃんの指先に摘まれた一粒の苺の甘酸っぱさが口に広がる。
「なあ、もしかしてそのチョコって、」
「チョコフォンデュ。少し前にやってみたいって言ってたっしょ?」
俺の誕生日祝いのお礼も兼ねて、という久保ちゃんの余計な一言に蹴りを入れる。
「時任、痛いってば」
「久保ちゃんが変な事言うからだろっ!……嬉しいけど」
「余ったら好きに使っていいからね?」
Happy Birthday.