since 2005年8月12日
8月22日
「なあ、久保ちゃん。赤と青だったら、どっちがいい?」
何の前触れも無く唐突に、時任からのそんな質問に。
「……青、かな?」
多少戸惑いながらも、青と答える。
時任に似合いそうだから、という言葉は思っただけで口には出さなかった。
それでも時任は何処か満足げに「青な。さすが久保ちゃん」と良く分からない賛辞を受けた。
その質問がそれ以上の話題に発展するでも無く、時任が「今日はカレー以外の物が食いたい」と
あまりにも可愛らしくねだるから、冷蔵庫の中の大鍋を無視して二人で買い物に出掛けた。
8月23日
件名:無題
本文:帰りに生クリームのパック買ってきて
そんなメールが届いたのは、鵠さんから頼まれたバイトが丁度終わり帰ろうとしていた矢先のこと。
何に使うの?とメールを打っても返信が来る気配は無く、意図の見えない時任の要望に答える為に
いつものコンビニでは無くスーパーに立ち寄った。
何に使うのか分からないから、取り敢えず一箱だけ、と思い買って帰れば。
受け取った袋を覗いた時任が思いっきり顔を顰めた。
「あれ、俺なんか間違った?」
もしかしてメーカーが違うとか、と適当に思い当たる理由を持ち出せば
「いや、何でもねぇ。ありがと、久保ちゃん」
半ば無理矢理に笑顔を作った時任が、相変わらず何に使うのか明かさないまま、生クリームを冷蔵庫に仕舞い込んだ。
8月24日
バイトから帰ってきたばかりのリビングで、まず目に入ったのが大きめのボールに泡立てられた白い生クリーム。
「あ、久保ちゃんおかえり」
「……どしたの、コレ」
昨日買ってきた物に間違いは無いだろうが、それにしては量が多い。
「なかなか上手く出来てるだろ?」
「まあ、そうね」
冷やしながら混ぜるだけなのだから、誰が作ったとしてもそう大差のある仕上がりになるとも思えないが、それを得意げな時任に向かって告げるのは、無粋というもの。
凄い凄い、と時任に合わせながら
「で、こんなに沢山作っちゃってどうするの?」
と繰り返せば。
「はい、久保ちゃん味見」
時任は答えず変わらない笑みを浮かべながら、左手の指先でボールの中の生クリームを掬った。
ほら、と口元に突き出される指先。
その手首には、不器用に巻き付けられた蝶々結びの青いリボン。
不意に二日前の質問が蘇る。
「味見だけなの?」
手首を捕らえて、差し出された生クリームを指ごと食みながら意地悪く問えば。
「美味かったら、好きなだけ食えば?」
意図を察した時任の目が愉しげに細められ、唇が綺麗な弧を描く。
「ハッピーバースデー、久保ちゃん」
青:精神的に満たされる。不変の愛。