ニード充足

「うわ、」

全身に纏わり付くような熱気の中。
バイトから帰宅して玄関を開けた久保田を迎えたのは、まるで冷蔵室か何かのように 冷却された空気。
あまりの温度差に久保田は軽く溜息を吐くと、もっと冷えきったリビングに居るであろう 時任の身体を心配しながら、心持ち足早にリビングに向かう。

「ただいま」
「あ、久保ちゃんお帰り」

案の定、タオルケットに包まるといった姿でソファーに座り久保田を迎えた時任の顔色が 悪くない事にまず安堵する。

「時任、これ設定何度よ?」
「18度」
「さすがに冷やし過ぎっしょ、それは」

久保田は時任の傍らに放り出されていたエアコンのリモコンを拾い上げると、スイッチを切り 窓を開けた。
つい先程まで不快に感じていた外の熱気が、冷えきった空気と交ざり合い過ごしやすい空気へと 作り変えていく。

「で、俺が居ない間に何でこんな事してるのかなー時任君は」
「久保ちゃん……」
「ん?」

時任の横に座った久保田の腰に、時任の腕が伸ばされる。

「あーあったけー」

そのままごろりと横になり、まるで冷え切った身体を温めようとするかの様にしがみつく時任に、 久保田は苦笑を浮かべ、その身体を包み込むように腕を回す。

「……甘えたいなら、素直にそう言えばいいのに」