副流煙中毒者

今日は朝から久保ちゃんの調子が悪いらしい。
と言っても寝てなきゃ辛いって程でも無さそうで、現に今だってリビングのソファーで ぼんやりと俺と一緒に何となく選んだ番組を眺めてる。
でもやっぱり調子は良くないんだと思う。
いつもにも増して口数は少ないし、何よりもヘビースモーカーのくせに今日はまだ一回も 煙草を吸ってる姿を見てはいない。
部屋に煙が充満するでもなく、換気のために開けられている窓のおかげで俺は普段では 考えられない程の清涼な空気を吸えてる訳だけど。
落ち着かない。
もやもやしたその感覚は気が付けば、あっと言う間にイライラに変わる。

「時任?どうかした?」
「……何でもない」

どうして久保ちゃんはこうも鋭いのか。
久保ちゃんのそういった鋭さも然ることながら、何よりも久保ちゃんに苛立ちを悟られる 自分に対して更に苛立ちが募るから悪循環。

「あー俺なんか寝足りないみたいだから。ちょっと寝てくるな」
「そ。昼頃起こせばいい?」
「うん、頼む」

結果、これ以上リビングに、というよりも久保ちゃんの側に居ることに耐えられなくなった 俺は苛立ちをぶつける前に逃げる事を選んだ。
寝室のドアを後ろ手に閉めてから、目の前のベッドに倒れ込む。
はあ、と盛大な溜息を吐いてから目を閉じれば。
慣れ親しんだ煙草の、久保ちゃんの匂いが昂ぶった神経を静めていく。

―これじゃあ俺のが中毒みたいじゃん。

時任は一人苦笑を漏らすと、訪れた眠気に身を任せた。