bath room

浴槽いっぱいに張られた乳白色の湯の中で、時任はぼんやりと立ち上る湯気を眺めていた。
いつもよりも温めの湯が疲れきった身体に心地良い。
微睡みに誘われるまま腕を枕に浴槽の縁に頭を預け、目を閉じた。

「時任、起きてるー?」

どの位の時間が過ぎたのか。
長湯にうとうとしていると、久保田の優しい声が浴室に響き、時任は薄らと目を開けると姿勢はそのままに久保田に視線を向けた。

「……起きてるよ」
「嘘。今寝てたじゃない」

久保田は柔らかく微笑むと浴槽の側まで歩み寄り、時任に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「早く上がんないと。のぼせちゃうっしょ?」

ジーンズを身につけ、ボタンも掛けずにシャツだけを羽織っただけの久保田。
何処までも穏やかに自分だけを見つめる瞳に、時任は切なさにも似た熱情を抱き、久保田に向かって両腕を伸ばした。

「久保ちゃん……」
「なーに?時任」

もう十分すぎる程近くに居るのに、まだ足りない。
湯に浸かったまま腕を伸ばす時任に逆らわず浴槽を隔てて更に近付くと、時任は久保田の首に両腕を絡げ自分の方へと引き寄せた。

「時任、服が濡れちゃうんだけど?」
「……じゃあ脱げ」
「それもいいけど。まずはお前を風呂から上げてから、ね?」

前作『after』のアフター。