白く、白く、どこまでも白く―

【雪】

静かに降り続ける雪。
深い漆黒の夜空を見上げてから、うっすらと白に染まっていく道を眺めた。
このまま一緒に消えちゃったりして……なんてね。
ナーバスになるのはきっと、凍てつくような空気のせい。

「帰ろ」

気分を変えるように冷たい空気を吸い込むと、日々煙草に苛まれ続けている肺が悲鳴を上げた。


***


ゆっくりと非常階段を上って、鍵を開けた玄関のドアを静かに開く。
電気の消えた暗い室内と暖められた空気の奇妙な組み合わせが却って俺を安心させた。

―良かった、今日は寝てくれていた。

ここ何日かの間、深夜にまで及ぶバイトが多く、寝ないで俺を待ってる時任にも疲労の色が見え始めていた。
出掛ける前に、今日は先に寝ていないと逆に寝かさない勢いで言い置いたのが、功を奏したのかもしれない。
その時の時任の様子を思い出し、自然と笑みが浮かぶ。
そうなると、寝てしまっているのが少し残念だ。
リビングの暖房を止めて外気に湿ったコートをソファーに放ると、寝室のドアを開けた。


***


暖かいリビングとは対照的に、寝室の空気は冷えていた。
暗さに慣れた目でベッドを眺めると、時任が毛布に包まり規則正しい寝息を立てている。
もう癖になってしまったのだろう、一人分空けられたベッドの隙間に潜り込んで、馴染んだ体温を腕に抱き寄せる。

「冷た、」
「ごめんね」

目を覚ましたのは、瞬間だけ。
静かに囁くと、またすぐに穏やかな寝息を立て始める。
余計な音は降り続く雪に掻き消され、微睡むままに目を閉じた。