since 2005年8月12日
知りたくないから、信じたくないから。
そんな「真実」なんて、いらないんだよ。
【truth or false】
「鍋にしよう」なんて言ってたのは、ほんの少し前の事。
二人して401号室に戻り、玄関のドアを閉めた瞬間、前後不覚に抱きしめ合った。
最初に感じたのは忘れ得ない互いの温もりと。
それから染み付いた煙草の匂い。
時任には嗅ぎ慣れた、久保田の匂い。
久保田には知らない、誰かの匂い。
「ソレ」が何を意味するか、なんて。
どーでも良すぎて、興味も持てない。
「時任」
身体を離して、なに、と目だけで問う時任に。
「ソファーとベッド、どっちがいい?」
「……ベッド」
「そ、じゃあ寝室」
促す振りをしながら現実に背を向けた。
***
バタン、と背後でドアの閉まる音がした。
いつもよりもやや粗暴に響いたその音に構う余裕など、二人には無かった。
傾れ込んだベッドの上。
激しく舌を絡め貪る様なキスを繰り返しながら、久保田はいつも以上に性急に。
時任もまたいつも以上に積極的に久保田を求めた。
だからこそ見つけられてしまった。
強くのけ反らせた首筋には覚えの無い、紅い痕。
「ねぇ、時任」
ソレに指先で触れると、ピクリ、と時任の肩が震える。
反射的に身構えた時任に殊更、どこまでも優しい声音で言った。
「言って?俺のことが好きだ、って」
ギシリ、とスプリングの軋む音が無機質に響く。
「俺だけを愛してるって、言って」
「くぼちゃ―、」
ベッドに時任を縫い付けて。
何か言いかけたクチビルを 無理に閉ざして言葉を殺した。