sick

同じ姿勢でただずっと寝てるだけ、というのはなかなか想像以上にしんどいもので。

「あいたたたた……」

ゆっくりと体の向きを変えると、今度は捻じ曲げられた腰やら膝やらの関節が抗議の声を上げるかのように痛み出す。

俺って、痛みには強い方だと思ってたんだけどなぁ……。

それは怖いおにーさん達に殴られたり、蹴られたり。
はたまた、物騒なおじさま達に拳銃で撃たれちゃったりする時の外因的な痛みの話であって。
高熱なんかによる内因的な痛みとは、訳が違うらしかった。
そんなもんで、たかが寝返りの一つでも酷く体力を消耗する俺に、ペットボトルの蓋を開けるだけの 力も今は無いから。
水分補給はコップにストロー。
そのコップですら、飲み物が入ってるだけで持ち上げるのに一苦労とくれば。

「なんだか病人みたい……」
「あのな。病人みたいじゃなくて、病人なんだっつーの」

小さい呟きにも関わらず、返って来た言葉に苦笑する。
いつの間に部屋に入って来たのか。
時任が呆れたように久保田を見下ろしていた。

「買い物行ってくるけど。なんか食いたいモンある?」
「んー、」

返事を待つ間、どこで見つけて来たんだか時任がアルミ製の軽いマグカップに新しい飲み物を注いで、 ストローも差し替えてくれる。
時任ってさ、がさつに見えてこういう細かい所によく気が回るんだよね。

「何も食いたくないかなー今は」
「俺様特製のでっかいハンバーグ乗っけたミートソーススパゲッティーを食わされるのと、食えそうな モン自分でリクエストするの、どっちがいい?」
「……お粥が食べたいです」
「よし」

それに、どーいう訳だか病人の扱いが巧い。
凶悪なまでの笑顔を引っ込めると、時任は一言「俺が居ないからって、煙草吸うなよ」と念を押してから 部屋を出て行った。

「白衣の天使なんて、嘘だよねー……」

そんな資格の有無など関係なく。
401号室の天使さまは誰よりも手のかかる患者のために玄関のドアを開けた。