misty

ずっと、欲しかったモノ。
望んでも手に入らないと、知った時には欲しがるのをやめていた。
それが手に入った現在、今度は壊してしまいそうで。
どこまで許される?

「は、あ……」
「時任……いい?」

長い口付けから解放して、そっと目を覗き込めば。
涙に濡れた瞳に、心配そうな表情を浮かべる自分が映った。
時任の事が心配な振りをして、本当は時任が俺を拒みやしないか―
それが心配なんだ。
時任は、何も言わない。
否がらない、という事は良いという事だろう。
そう、自分に都合の良いように解釈して、あまりにも身勝手な思いを時任に悟られない内にもう一度深く口付けて 既に一度熱を放った身体を、再び確かめるように辿った。

「ん……」

まだ片手で数えられる程の行為の中、拒絶の言葉は、一度もない。
かと言って、受け入れられているとも思えない。
俺が求めて、時任が身体を開く。
それだけ。
時任の答えは、未だ見えてこない。

「久保…ちゃ……」

不意に呼ばれて、どうしたの?
そう、訪ねるよりも先に何もかも見透かすような瞳に見つめられて、呼吸が止まるような感覚に陥る。

「大丈夫だから……」

時任に、というよりも自分に言い聞かせて不安を気取られないように押し殺しながらさらに下へと手を這わせた。
指がその場所を探り当てた瞬間、身体に力が入ったのはこの先の事を知っているから?
覚えたばかりの感覚に震えながらも腕を伸ばすのは、お前も俺を求めてる、って自惚れてもイイ?
ギュッとシーツを掴む指先に力が込められるのを視界の端で捉えて、上からそっと包み込む。
そして耳元に囁く睦言は

「もう、欲しい?」

狡い俺。

「言って」

本当に欲しがってるのは

「欲しい、って言って。そしたら、」

与えて貰いたいのは

「いくらでもあげるから」

俺なのに。



***



「久保ちゃん……」
「うん?」
「何でもねぇ……」
「そ」

風呂入ってくる。
そう言い置いて、ベッドを抜け出した時任の闇に溶け込む背に思わず手を伸ばして届く前に宙で留めた。
抱き締めた腕の中で、もし消えてしまったらと思うと怖くて、それすら出来やしない。

「最低だね、俺……」

ベッドの中、身体をずらして遠くにシャワーの音を聞きながら。
時任の気配が残るその場所に顔を埋めた。