0313

それなりに賑やかで、かつ知り合いには決して出会わないであろう場所。
それを基準に俺はこのショッピングモールを選んだ。
……はずだった。

「く、久保田さんっ!何でこんな所に居るんですか!」
「いや、それどっちかっていうと俺のセリフなんだけど」

言われてみれば、この辺りは久保田さんの家の近所……にしては少しばかり遠すぎやしないか。

「ちょうどいいや。少し付き合ってよ。暇でしょ?」
「まーた新商品ですか?」
「うーん、アタリだけどハズレ。じゃ、罰ゲームって事で行きましょーか」
「ちょっと、俺は行くなんて一言もっ」
「いいからいいから」


***


訳の分からないまま半ば強引に連れてこられたのは、同じ敷地内にあり、ホワイトデーにオープンを迎える スイーツ専門店だった。

「なんか俺たち、すげー浮いてません?」
「そう?」

明日のオープンを記念してのイベント、という事らしく店内には既に20人ほどの招待客らしい女性達が居た。
(希少価値の高いらしいイベントの招待券を何で久保田さんが2枚も持っていたのかは、この際考えないことにする)
居心地悪く店内を見回す俺とは反対に、久保田さんは周囲の状況について全く意に介さない様子だった。
そして、可愛らしくフルーツの盛りつけられたタルトを目の前にして「いただきます」と行儀良く手を合わせたのを見て、 俺も諦めて運ばれてきたシフォンケーキにフォークを突き立てた。

「それで、小宮は何の用でこんな場所まで来たの?」
「……明日はホワイトデーじゃないですか」

こんな場所に人を連れてきておいて、知らないとは言わせない。
久保田さんは少し考えるような素振りを見せてから、ああ、と納得したように頷いた。

「で、決まったの?」
「決まってたら俺がいつまでもこんな所に居るわけ無いじゃないですか」
「それもそーね」

こんな調子で、本当に明日を迎えられるのだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていたが、カチッという耳慣れた音と匂い立つ煙草の煙に、ふと我に返った。

「ま、プレゼント出来るのは物だけとは限らないっしょ。もっと簡単に考えたら?」
「それが出来たら、こんな苦労なんてしませんよ」

それにしても。

「……美味いっすね、ここのケーキ」
「うん、そうね」


***


「で、結局カノジョさんには何をあげたの?」
「内緒です」

ホワイトデー、の前の日。