与える-0908-

ハンバーグ、グラタン、ナポリタン。

「ほんと、よく食うなぁ。腹壊しても知らねーぞ?」

それらの皿が運ばれて来ては次々と消化していく時任を見ながら、葛西は呆れたように笑った。

「大丈夫だって。それに今食っておかねーと、次はいつ食えるか分かんねーし」
「なんだ、誠人の奴にちゃんと食わせて貰ってねーのか?」
「いや、久保ちゃんなら食ってるけど。毎日」

時任の言葉に葛西は飲みかけていたコーヒーを噴き出しそうになり、激しく噎せ込んだ。

「あーあ、大丈夫かよおっちゃん」
「お前が変な事を言うからだろうがっ!」

葛西は周囲を憚り声量を抑えたつもりだったが、それでも少なくない客の視線と自分が何を口走ったのかを理解してない様子の時任に肩を落とした。

「それで、結局プレゼントはまだ決まってねーのか?」
「ん、まだ考えてない」

戸籍の分からない時任の誕生日をどう決めたのか経緯は分からないが、今日が時任の誕生日という事になっているらしい。
先日久保田に電話した折にさり気なく「時任の誕生日を祝ってほしい」みたいな事を言われた時は驚きもしたが、甥っ子の 珍しく可愛げのある頼み事に、葛西は時任を「飯でも奢ってやるから」とファミレスに誘い出した。
そして、いざ呼び出した祝われるべき当の本人は、何やら深刻な顔。
聞けば「誕生日のプレゼントが決まらなくて困ってる」という。

「久保ちゃんは何でもいい、って言うんだけど」
「だったら誠人の言う通り、ゲームでも何でも欲しい物買って貰えばいいじゃねーか」
「それじゃぁいつもと変わんないだろ。つーか、俺が欲しいって言ったら久保ちゃん、いつでもすぐ買ってくるし」
「はは、相変わらず甘やかしてんなー誠人のヤツ」
「笑い事じゃねぇっつの。あーマジでどうすっかな……」
「べつに、そんな無理に考える事無いと思うけどな。ただケーキ食うだけでも、十分誕生日を祝ってる事になるんじゃないか?」
「俺はそれでもいいんだけどさ。久保ちゃんが楽しみにしてるから」
「にしても、あれだな。時坊はいつでも何かしら欲しい物があると思ってたけどな」

まさか、欲しい物が無くて悩むなんて意外だ。
無ければ無いで何か適当なものを選べばいいものを、そうはせずに真剣に悩む辺りが時任の良い所であると言える。
そして、自分の誕生日なのにも関わらず自分ではなく久保田を優先している、という事実。
はたして本人は気付いているのか。

「……俺はべつに何か物が欲しいわけじゃないんだ。ただ、久保ちゃんと過ごせる理由があればいいってだけで」
「それ、帰ったらそのまんま誠人に言ってやれ。きっと喜ぶぞ」
「……本当にそんなのでいいのか?」
「おう。だから今日はもう早く家に帰ってやれ」
「ん、分かった。サンキューな、おっちゃん!」

元気よく駆け出していく時任の背中を見送りながら。

「……よかったな」

それが、漸く誕生日らしく晴れやかな表情になった時任への言葉か、また何事にも興味を見せなかった久保田への祝辞か。
自分自身にも分からなかった。

時任Happy Birthday!