call

寒くない?
「へーき」

エアコン、つけてもいいよ?
「大丈夫だって」

たばこ吸っていい?
「それはダメ」

困ったような顔をした久保田に、時任は笑った。

「まだ声出ねーんだろ?」
「っ、」

うん、と答えようとして久保田は乾いた咳をした。

「あーもう、久保ちゃん無理にしゃべんな」
ごめん。
「気にすんなって。俺も悪かったんだしさ」

情けなく項垂れる珍しい久保田の様子に、時任はその背を軽く叩いてやりながらまた笑った。
久保田の声が出なくなった。
異変に気付いたのは、朝、目が覚めてから。
起き抜けに喉に言いようのない不快感を覚えたが、久保田はもともと喉が丈夫な方ではない。
だから少しくらいの違和感は然して気にもせず、後から起き出す寒がりな時任のために、
少し高めに設定したエアコンのスイッチを入れ、習慣付いた動作で煙草に火をつけた。
連日のようにエアコンをフル稼働させ、乾燥した部屋の中で換気もせずに長時間に渡って
煙草を吸えば、どうなるか。
久保田は身をもってその結果を知ることとなった。
それに対して起き出したばかりの時任の対応は素早いものだった。
意外と(と言えば本人は機嫌を損ねるが)状況判断に長けている時任は久保田の声が出ないと
知ると、すぐさまエアコンを止め、窓を大きく開け放つと久保田の手から煙草を取り上げ
「禁煙」を言い渡した。

(それにしてもねぇ……)

大丈夫だと言い張ってはいるものの、やはり寒いのかしっかりと久保田に寄り添い暖を取ろうと
努力している時任を見下ろした。

「何だよ?」
なんでもないよ。

視線に気付いて見上げた時任に、そう伝えるつもりで微笑んでみせる。

「ならいいけど」

こんな風に時任は、言葉を声に出さなくても伝えたい事を正確に読み取って、返してくれるのだ。
いくら鋭くても、そう簡単に出来る事ではない。
よほど、相手の事をよく見ていなければ。

(これって、自惚れてもいいのかな?)

そろそろ身を寄せているだけでは辛くなってきたのか、ほとんどしがみ付くような体勢に
なってきている時任を楽な姿勢に正してやりながら、その温もりを腕に抱きこんだ。