微熱日和

ごろごろ、ごろごろ。
決して広くは無いベッドの上を転がって

「あ゛〜……」

どうしようもない苛立ちを紛らわせる為の声を上げれば。

「へーき?」

心配そうに時任の顔を覗き込む久保田と目が合った。

「へーきじゃない。だるい。てか、死にそう」
「そんな大袈裟な」

それでもまだこうして話が出来るだけの元気はある事に安堵した久保田はコンビニの袋を探り、
時任が所望したポカリを手渡した。

「ま、死なれても困るしね?」

久保田は再度袋を探り、一緒に購入したアイスを取り出した。
箱を開け、ひとくちサイズのそれを時任の口に放り込む。

「それ食べたら大人しく寝てなさいって。却って熱が出ちゃえば少しは楽になるはずだから」
「なぁ、やっぱ熱出てくると思うか?」
「まだ微熱だからね。出ない方が辛いっしょ?だから早く寝て、って時任……」

ごろごろ、ごろごろ。
言ってる側からまた転がり始める時任に、久保田は深い溜息を吐く。
これではまるで、駄々っ子のお守りだ。

「しょうがないね……」

ごろごろ、ごろごろ。
未だに転がり続ける時任が壁際に寄った瞬間、久保田は素早く布団を捲り上げ
時任の横に滑り込んだ。
そして、時任をそのまま腕に閉じ込める。

「ちょ、何すんだよ久保ちゃんっ」
「だって時任、動いてばっかでちっとも寝ないんだもん。実力行使」

言葉の割りにはふわりと回された腕に、時任は思わず動きを止める。

「……うつっても知らねーからな」

その上子供をあやすように頭を撫でられ、熱のせいだけではなく赤くなった顔を隠すように、
時任は今度こそ大人しく布団を被った。