medication

胃が痛い。
それは不定期的に訪れる、じんわりと疼くような痛み。
にも関わらず、まだ日も昇りきらない内からそろそろ何杯目かを数えるのが煩わしくなるほどの
ブラックコーヒーを、半ば意地でカップに注ぎ込む行為は、とんだ胃壁苛めだと自嘲気味に思わなくも無いけど。
べつに死にたい訳じゃあ無いけど、特別生きたいとも思ってない俺は、胃が痛かろうが何だろうが、いつもの様に 煙草は吸うし、コーヒーも飲む。
そもそも、長く習慣付いたものを身体のためとか言って急に断ち切る方が、身体的にも精神的にも
悪い気がするし。
それに、コーヒーの苦みが多少は胃の痛みを忘れさせてくれるから。

「久保ちゃん」
「うん?」

そろそろ味覚が麻痺するのと、痛みに苛まれた胃の中が黒い液体で満たされるのと、どっちが早い
かって所だった俺の手から、いつの間にか起き出した時任がカップを取り上げる。

「朝っぱらこんな毒みたいなもんをガブ飲みすんのやめろ」

あらら、毒って。
今の俺にとっては何よりも効く最良の薬みたいなもんなんだけどね?

「見てるコッチの胃が痛くなるっての」

うん、って。あれ?

「俺、胃が痛いなんてお前に言ってないよね?」
「そんなの、言わなくても分かるっつーの。まあ、ちょっとは安心したけど」

久保ちゃん鈍感だから、気付いてなかったらどうしようかと思った。
呆れたように笑いながら、まだ中身が半分くらい残ってるカップを牛乳で満たして、
そっちのがよっぽど身体に悪いんじゃないか、って問いたくなるような量の砂糖を投入して
掻き混ぜた代物を、そりゃもう幸せそうに飲み干すものだから。

「美味いの?それ」
「少なくともこっちのが身体に優しい事だけは確かだな」

時任が、飲み終えて空になったカップをテーブルに置く。
そっと重ねられる濡れた唇を、誘われるままに舌先で軽くなぞり上げると、
鈍くなったと思われた味覚がより鮮明さを取り戻して、俺にその感覚を教えた。

「……あま」

でも。

「癖になる」