healing

「あーくそ!またゲームオーバーかよ!!」

時任が八つ当たり気味に放り投げたコントローラーがフローリングに叩き付けられて、
かなり嫌な音を発てる。
別にコントローラーの一つや二つを壊されたところで、今さら怒りはしないが。

……壊れたら、誰が買ってくると思ってるのソレ。

「ときとー、遊ぶのはいいけど、静かにね」
「だって、あんな倍速再生みたいな曲を流されたら、焦るだろ普通」

コントローラーを投げた位では気が治まらないのか、未だ文句を言い続ける時任の傍らに、
そっとコーヒーを置く。

「それは単純に、腕の問題?」
「なんかムカつく……」

砂糖とミルクを掻き混ぜるスプーンがカップの縁に当たるカチャカチャという音が、
耳に心地よく響く。

「そういえばさ、人間に限らず動物が一番聞いてて落ち着く音って、何か知ってる?」
「知らねー。なに?」
「これ」

トン、と人差し指で軽く時任の胸を突くと、不思議そうな目がそれを追った。

「答えは、心音」
「なんで?」
「生まれる前から母親の胎内でずっと聴いてた音だからじゃない?どんなに寝付きの悪い
赤ちゃんでも、心臓の音が聞こえるように抱っこしてやると、すぐに寝付くんだって」
「そーなの?」
「本当かどうかは分からないけどね」

それが正論であれどうであれ、確認する手立てなど何一つ無い俺に出来るのは、
ただ曖昧に笑って誤魔化す事位だ。
時任がじっと考え込むような素振りを見せたかと思えば、何を思ったのか、
突然ソファーにゴロリ、と仰向けに倒れ込んだ。
そして、俺に向かって両手を伸ばし、笑顔で言った。

「久保ちゃん、抱っこ」
「なに、これ」
「本当に寝付くかどうか、実験」
「俺、赤ん坊?」
「でっけーガキだな」
笑って言いながらも、早く来いとばかりにソファーを叩く時任に甘えて、ちょうど胸の当たりに
頭が乗っかるような位置で寝転んで、全身の力を抜いてみる。

「ぎゃー!久保ちゃん、重いー!!」
「失礼な。お前が言い出した事なんだから、最後まで責任持ってね」

じたばたと暴れる時任に構うことなく聴覚に届く音に集中すれば、やがて訪れた眠気に任せて
目を閉じた。