呼びかける

「久保ちゃん」

例えば、機嫌が良い時とか、怒っている時とか。
甘えたい時とか、拗ねている時とか。

「なーに?」

顔を見なくても、呼び声のトーンひとつで表情さえも読み取れるそれに合わせるように間延びした返事をしながら、読んでいた雑誌を閉じてさり気なくテーブルの上に避ける。
待っていたかの様に、ごろりとソファーに寝転び膝に掛かる心地良い重み。

「擽ったいってば」

時任が身動ぐのを落ちない様に支えてやりながら、片手で毛布を引き寄せる。

「眠い」
「知ってる」

目を擦る手を止めさせようと柔らかく抑えれば、不服そうに鼻を鳴らす。
宥めるように毛布からのぞく頭に手を添えれば、やがて穏やかな寝息が静かに響いた。

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