雨の降る日は昼間と言えど薄暗い。
時任と二人、何をする訳でもなくソファーに並んで面白くもないテレビを眺めていた、そんな時。

「なあ、痛い?」
「うん?」

なにが?
何の脈絡も無くそう問い掛けられて、首を傾げる。
躊躇うように左腕に触れられて、ああ、と思い出す。

「べつに。ていうか、何年前の話よ、それ」

目に見えて傷が残っている訳でも無ければ、こうして時任に振られなければ思い出しもしない、過去の痛み。
記憶さえも朧げなそれを気にしてか、遠慮がちに触れる時任の右手に自分の右手を重ねる。

「どうしたの、突然」
「いや、こーいう雨の日って昔の怪我とか痛くなるっていうじゃん」

だから、と目を伏せる時任にふと笑みが漏れる。

「いいなぁ、それ」
「何も良くないだろ」

こうして傷が目に見えなくても、折られた骨が完治していても、『俺を傷付けた過去』が時任を傷付けている、それだけで。

「俺が良い、って言ってるんだから良いっしょ?何か飲む?」

物問いたげな時任の視線を誤魔化すように、二人分のコーヒーを淹れる為に立ち上がった。

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