since 2005年8月12日
玄関に行儀悪く脱ぎ散らかされたスニーカーに随分と早いお帰りで、と皮肉めいた言葉が浮かぶ。
まあ、一晩明けてどっちが先に帰って来た所でどうせその後の展開は一緒なんだけどね。
時任が寝ていようがいまいがこの際関係無いから、遠慮の欠片もなく玄関からリビングまで突き進む。
「おかえり、久保ちゃん」
「……ただいま」
ドアを開けた音に振り向いて、目が合う。
その瞬間、「うわ、何その甘ったるい匂い」と顰められた顔に内心ほくそ笑む。
まあ、わざとだし?
バニラの香りが特徴的な甘い煙草の匂い。
「シャワーくらい浴びて帰ったらどうだ」という勧めも「すぐには消したく無いんで」と丁重にお断りしたから、他にもイロイロ。
ソファーに近付いて、案の定気付いたらしい時任が冷やかな視線と共に嘲笑めいた笑みを浮かべる。
「なに勝手に俺以外とヤッてんの」
「それお前が言うの?」
そういう時任だって、ウチのじゃないシャンプーと石鹸の匂いさせてるじゃない。
バイトなんて言いながら陰で滝さんと何してんだか。
時任が不意に立ち上がる。
その瞬間、腕を引かれてソファーに突き飛ばされた。
そのまま腹の上に乗られて、見下ろされる。
「久保ちゃんは俺のなの」
身勝手で我儘な神様は、独裁者宜しく鋭い笑みを浮かべた。