静かな部屋に時折雑誌を捲る音だけが響く。
無造作に組んでた脚を解こうとした所で踵に添えられた手の存在に、既の所で思い止まる。

「おっと、」
「あ、ごめん。大丈夫?」
「そのまま顔蹴られるかと思った」

雑誌から顔を上げると、言葉の割には危なげなくへらりと笑う誠人と目が合った。
その手にはマニキュアの瓶と筆。
再び足元に屈み込み、最後に残った小趾に色を乗せる。

「終わった、けど。どう?」

言われて、改めて両足に目を落とす。
全ての爪に施されたペディキュアの出来映えに満足8割、嫉妬2割、といった所か。
小首を傾げ見上げる誠人に、にっこりと笑みを向ける。

「うん、完璧ね。腹立つくらい」
「何それ」

苦笑しながら立ち上がって、「塗れって言うから塗ってみただけなんだけどなー」とぼやく声は聞き流す。

「だって誠人、器用そうだから」

―器用ついでに手も塗って貰おう。

外は雨。
密やかな思惑は雨音に隠した。

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