好きな人は君だよ

「滝さんさあ、好きな人とか居ねーの?」

その言葉に、カップを持ち上げようとした手がピタリと止まる。
無邪気な顔をして残酷な事を訊くね。

「んー、居なくもないよ」

目の前に。
なんて言葉はコーヒーと一緒に飲み込んだ。

「へえ。どんな人?」

興味津々、といった面持ちで身を乗り出してくるその姿に苦笑い。

「強いて言えば君みたいな人かなー」
「分っかんねーよ」

自分から訊いておきながら、早くも興味を失ったように「そう言えば昨日久保ちゃんが、」と話し始めるその楽し気な表情を見ながら、

「まあ、絶対に手には入らないんだけどね」

呟いた声は店内の喧騒に掻き消された。

お題元:3つの恋のお題ったー