since 2005年8月12日
曇り一つないグラスに色深いワインが注がれる。
一礼をして去って行くウエイターの姿を見送りながらグラスを傾ける真田に倣い、ひと口、にしては少ない量を含んでみる。
「ワインは嫌いかね?」
「嫌いっていうか、」
白いクロスに覆われたテーブルにグラスをそっと戻す。
珍しく目に愉し気な色を浮かべながら自分の動作を見つめる真田に肩を竦める。
「良く分からなくて」
「正直で結構」
これ位で気を損ねる様な人では無い。
まして今日はいつもよりも機嫌が良い。
「飲ませ甲斐が無いとか思ったりしません?」
「いや、育てる楽しみが増えただけだよ」
戯言を言って許される時と、そうで無い時。
日頃あまり表情を変える事のない彼の、こうした些細な機微の変化を見分け、悟れる自分に優越感すら覚える。
「まあ、ワインの事は正直、良く分からないですけど」
もうひと口、先程よりも多くの量を口に含む。
重い液体が喉の奥に滑り落ちた。
「このワイングラスが高い事位は分かります」
ああ、やはりワインは性に合わない。
飲み慣れないアルコールが気を大きくさせる。
この人の自分に向ける眼差しが、こんなにも優しく見えるだなんて。
「慣れてないなら程々にしておきたまえ。酔いが回ってはこの後の楽しみが台無しだからな」
「真田さんにとって、でしょう?」
不安定な視界に苦笑を浮かべる姿が映った。
身体がフワフワする。
「君にワインは早過ぎたようだね」
手からそっとグラスを取り上げられた。