ライターに火が灯る微かな音と、ふわりと立ち上る煙の匂い。
薄明かりの中、不思議と慣れた様子で息を吐き出すその姿を微睡みから抜け切らないまま見上げる。

「あれ、俺寝てた?」
「うん。ちょっとだけどな」

そう言いながら灰を落とすその仕草さえ、なかなか様になっているように見えた。

「なに見惚れてんの」
「うん?良い眺めだなーと思って」
「じゃあ、見んな」

緩やかに目元を手で覆われる。
そっと外させると、まだ長さの残る煙草を灰皿に押し付ける時任と目が合った。

「ていうか、何してんの?」
「久保ちゃんの真似」
「……そんなに良いモンでも無いと思うんだけど」

おいで、と手招きをして。
逆らわず腕に収まった時任の首筋に鼻先を近付ける。

「俺と同じ匂いがする」
「……匂いだけ?」

時任が振り返る。
ひっそりと紡いだ唇に目を奪われた。