残り香

時任が目の前を横切った、その瞬間。
知らない様で知っている匂いに、眩暈を覚えた。
いい加減、勘付いてしまう自分にも嫌気がさす。

「時任」
「なに?」

ご丁寧に、シャワーまで借りちゃってさ。
『何が』あったかなんて、バレバレなんだけど。

「それ、わざとやってんの?」

不思議そうに見上げる時任の目は、何処までも純粋そのもので。
あーあ、罪悪感なんてこれっぽっちも無いんだろうね。
口を開こうとする時任を片手で制する。

「いや、いいよ何も言わないで。聞きたくないから」

嘘や言い訳ならまだ可愛げがあるものを、どうせまた馬鹿正直にべらべらと教えてくれるんだろうから。