街灯

「ほら、危ないからまっすぐ歩いて」
「んー……」

極度の眠気の為か足元の覚束ない時任の手を引きながら、駅から家まで街灯が照らす夜道をゆっくり歩く。
いくら猫の手も借りたい忙しさ、って言ったって流石に限度ってものがあるっしょ?
ブラック企業もビックリな拘束時間に閉口して流石に時任に連絡しようとしたら、雇い主である滝沢から「危なっかしくて帰せないから迎えに来て欲しい」と電話があり、 その何とも申し訳なさそうな声に溜飲を下げ時任のお迎えに。

「そんな無理してバイトなんかしなくても良いのに」

半ば腕に凭れるようにしながら歩く時任の歩調に合わせながら、言い聞かせる訳でもなくただ呟く。
べつに、時任の稼ぎが必要だなんて事も無いのだし、こうして帰りが遅いと気を揉む位なら家に居てくれた方がよっぽどマシだ。

「なあ、久保ちゃん……」
「んー?」

信号で立ち止まる。
肩にとん、と頭を預ける時任の重みと伝わる体温が心地良い。

「明日は何か美味いモン食いに行こうぜ……俺のバイト代で……」
「うん。お前がゆっくり休んでからね」

時任がふわりと笑うのを気配で感じた。