節分

事務所のドアを開けた瞬間、目に入った光景に思わず深い溜め息を吐く。

「……何の騒ぎだ」

それまで騒いでいた若い連中が突然、水を打ったように静まり返る。

その分かりやすい態度に顔を顰めると輪の中心に居た龍之介があっけらかんとした様子で振り返った。

「よう、ちゃむ。お帰りー」

その頭には鬼の面。

「これは何の真似だ?」
「何って、どっからどう見ても豆撒きだべ?鬼は外ーってな」

何処の世界に豆撒き如きで盛り上がるヤクザ事務所があるのだ。
豆を撒き散らす龍之介に鬼はお前だろう、とか誰が掃除するんだ、とか。
足を踏み入れた瞬間に靴底で潰した大豆の感触に、もう何も言うまい、と。
事務所の惨状から目を逸らし深々と溜め息を吐いた。

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