since 2005年8月12日
車内を気まずい空気が流れてる。
いや、気まずいと思ってるのは俺だけで、助手席でぼんやりと外を眺める久保田さんは何も感じていないかもしれない。
ちらりと横目で見て、気付かれないようにそっと溜息を吐く。
「あれ、事務所に行くんじゃないの?」
「久保田さんの家っすよ。送るように言われてるんで」
「ふーん……」
再び車内が沈黙に包まれる。
居た堪れなくなった所でああそうだ、と努めて明るい声を出す。
「真田さんから伝言なんすけど、今日はゆっくり休むようにって、」
言ってから『しまった』と口を噤む。
迎えに行った先で目にした光景をわざわざ思い起こすなんて、墓穴にも程がある。
もし今ハンドルを握っていなければ両手で頭を抱えている所だ。
「そんなに気を遣わなくても良いのに」
久保田さんが小さく苦笑を浮かべる。
それは真田さんの伝言に対してか俺の内心を知っての事か、いまいち判断がつきかねる。
「小宮はいま時間ある?」
「まあ、ありますけど……」
「そ。じゃあ悪いけど遠回りして帰って。30分くらいで良いから」
そう言ってシートを倒した久保田さんに、家で寝たら良いじゃないですか、と。
言いかけた無粋な言葉を飲み込んだ。
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『dictator』→『伝言』