since 2005年8月12日
ある冬の晴れた朝。絶好の洗濯日和。
洗濯機の中の洗い上がった洗濯物を籠へと放り込んで、ベランダへと通じる窓を開けた。
瞬間、身を切られるような空気の冷たさに首を竦める。
「冬だねぇ……」
先ほど起こした時任は暖かいリビングのソファーで、まだ半分夢の中。
そんな時任に目を細めて、二人分の洗濯物を手早く干していく。
洗濯にしろ何にしろ、時任の為に甲斐甲斐しく世話を焼くのは、惚れた弱みってやつで、
全然苦にならない。
苦にはならないけど。
籠に残った、最後の一枚。
手に取ってみれば、それは時任のシャツで。
広げた瞬間、思わず溜め息が漏れた。
「まーた、時任は……」
時任は、面倒くさがってシャツのボタンを上の方だけ外して脱ぐ癖がある。
それはそれで良いんだけどね?
そのシャツを裏返しにしたまま洗濯機に放り込むのは、やめて欲しい思う。
切実に。
「時任ー、シャツは表に返してから洗濯機に入れて、っていつも言ってるでしょ?」
「ん……」
時任のシャツも干し終えて、戻ったリビング。
幸せそうな顔をして毛布に包まったまま、まだ完全に覚醒していない時任の頬に、
外気で冷え切った自分の手を押し当てた。
「うわ、冷てっ!」
「あ、起きた?」
「起きた?じゃねーよ……」
さっきまでの幸せそうな顔は何処へやら、一変して不機嫌さを隠そうともしない表情へと早変わり。
「で、何だって?」
「だから、シャツ。ちゃんと表に返してって」
「なんだ、そんな事かよ……」
「そんな事、ねぇ……」
俺の切実な頼みを、時任は「そんな事」で済ませる気なんだ?
干す時に一々ひっくり返すの大変なんだよ?
時任には分からないかも知れないけど。
「く、久保ちゃん?」
急に押し黙った俺に、時任が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「時任。そんなに面倒くさいなら、俺が毎回脱がしてあげよっか?」
「えっ…いや、いい!自分で脱げる!!」
瞬時に離れようとする時任の腕を捕らえ、ソファーにその身体を押さえつける。
「言うこと聞かない子は、オシオキ」
「ちょ、やめっ……あっ」
その日以来、時任が洗濯物を裏返しのまま洗濯機に放り込む事はしなくなった。
うーん、楽になったけど、ちょっと残念?
と思ったり思わなかったり。