交差点

人混みの中で頭一つ抜き出た久保ちゃんを見付けるのは至極簡単な話。
声を掛けようとして、躊躇ったのはほんのイタズラ心。
顔を背けて交差点の人混みに紛れ込む。
足早に擦り抜けようとした、その瞬間。

「どこ行くの?」

腕を掴まれ、引き寄せられた。
その力に満足して振り返る。

「おかえり、久保ちゃん」
「うん、ただいま。で、お前は何処に行こうとしたのかな?」
「内緒」
「何それ」

久保ちゃんが呆れたように笑う。
その時、信号が急かすように点滅を始めた。

「早く行こうぜ」
「はいはい」

どさくさに紛れて、冷えた指を絡げた。