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酷く不快な夢を見た。
未だバニラの香りが纏わり付いている気がして、爪を立て全身を搔き毟りたい衝動に駆られる。

「久保ちゃん」
「あー……起こしちゃった?ゴメン」

外は雨。
夜明けの薄明かりの中、時任は答えず静かに見据えられる。

「何つー顔してんだよ」
「……そんな酷い顔してる?」
「してる」

不意に時任の左手が額に触れた。
そのまま撫でられる心地良さに目を閉じる。

「どうせまたしょーもない事考えてんだろ」

時任の声が遠い。
うつらうつらと夢に引き摺られる。
思い起こされる、甘い残り香。

「おい!」
「っ!なに?」

殴られたのは枕元。
流石に夢の名残りも断ち切られる。

「誰、見てんの」

今度こそ、怒った声。
視線を逸らす事さえ、許されない。

「ときと、」
「黙れ」

忘れさせて。