surprising

「で、何でお前のカップを使わせるかなー」
「だって、来客用のはこの前割っちまったし。俺のか久保ちゃんのしか無いじゃん」

うん、そうだったね。と半ば上の空で返しながらすぐに新しい物を買いに行かなかった事を後悔する。

「どうせ使うなら俺のにすれば良かったのに」

自分でさえ使う機会の無い時任のマグカップをよりによって滝さんが使うってどーなのよ、とは流石に言えず、シンクに無造作におかれた時任のカップを眺める。
捨てちゃおうかな、コレ。

「だって、滝さんなんかに久保ちゃんのカップ使わせたく無いし」

ふと耳に届いたその言葉に思わず時任を振り返る。
僅かに見て取れるその顔は微かに赤い。

「何それ」

知らず頬が緩む。
我ながら現金なものだと思いながら、ゴミ箱に叩き込まれるのを回避したマグカップを丁寧に洗いあげる。

「時任」

なに、と視線だけで返すその姿に笑いかける。

「買い物。付き合わない?」

fragile→precious→surprising(終)