precious

「わー、まさかトッキーが俺の為にコーヒー淹れてくれるなんてなぁ」

それも見慣れた来客用のカップでは無く、これもまた見慣れた時任本人のマグカップに、だ。
俺の人生は明日で終わるかもな。
強ち冗談でも無い憶測に知らず身震いすると、何を勘違いしたのか時任が眉間に皺を寄せる。

「何言ってんだよ。俺にだって客が来たらコーヒー出すくらいの甲斐性はあるっつーの」

バカにすんな、とでも言う様に客に出すというにはやや乱暴な音を立ててコーヒーが目の前に置かれた。
なみなみと注がれたコーヒーの表面が波立ち僅かにテーブルを濡らす。

「いや、そうじゃないって。いつもはくぼっちが淹れてくれるじゃない?だから新鮮だってハナシ」
「本当かぁ?」
「ほんとほんと。有難く頂きます」

仰々しく手を合わせる滝沢に、時任はまだ不満の表情を崩さない。
誤魔化すように口に運んだコーヒーはいつもよりも苦い味がした。

fragile→precious