fever

秋も深まって、冷える事が多くなった朝。
出るには惜しいほど、暖かいベッドの中。

「ん……」
「時任、起きたの?」

擦り寄ってきた時任に、ふと感じた違和感。
寝起きに時任が甘えてくるのは、いつもの事だけどパジャマ越しに伝わる体温が、
いつもより若干高くて。
僅かに覗く頬が熱を帯びて見えるのも、気の所為じゃない、よね?

「時任、もしかして熱あるんじゃない?」
「……ねーよ」

いや、そんな熱っぽい目して言っても説得力ないし。
それに、今の間はなに?

「一応、熱測ってみない?」
「無いんだから、測んなくたっていーじゃん……」
「そーかなぁ、少しはあると思うんだけど」

言いながら、時任の額に手を当てて。

「うーん、38.0℃くらい?」
「うそ、ぜってーそんなねぇ!」
「じゃあ、測ってみる?」
「おう!体温計よこせ」
「はいはい」

これ、子供なんかに良く使う手なんだけどなぁ。
でも、上手いこと時任に熱を測らせる事が出来そうで、とりあえずは 一安心。
滅多に使わない体温計を引き出しの中から探し出して、時任に手渡す。
暫くして、ピピッという小さな電子音と共に差し出された体温計。

「37.5℃か……微熱だねぇ」
「ほら見ろ。やっぱ、そんな無かったじゃん」

勝ち誇ったように言う時任に、そーだね、と適当に返しながら乱れた襟元を軽く整えて、
毛布も掛け直す。

「とりあえず、何か作るから。暖かくして寝てなさいね?」

何か食べないと、治るものも治らないだろうし。
風邪にはお粥かなぁ、やっぱ。
そんな事を考えながら、キッチンに立とうとしたその時―

「時任?」
「あったかくして、寝てなきゃダメなんだろ……?」

さっきまでの勢いは何処へやら、熱い手で弱々しく、だけどしっかりと腕なんかを掴まれちゃったりしたら。

「うん、暖かくして……寝てよーか」

どーでもいいか、ってなるのも無理ないっしょ?

「久保ちゃんに伝染るかもな……」
「いーよ、伝染しても」

それで時任が良くなるならね。
そんな意を込めて、ベッドの中で時任を抱き寄せると。

「俺の飯がなくなるからヤダ」
「ひどいなー」

いいよ、ほんとに伝染ったら今度は時任に暖めて貰うから。
でも、とりあえず今は―

「おやすみ」
「うん、おやすみ」

風邪は寝るのが一番、てね。