wavers

昼過ぎから降り出した雨は夕方に近付くにつれ激しさを増し、窓の外は夜のように暗い。
ペタペタと響く濡れた足音に滝沢はパソコンの画面に向けていた視線を外すと、椅子ごと振り返り苦笑を浮かべる。

「ちゃんと拭いてから出て来いよ。人んち水浸しにする気?」
「じゃあ拭いて」

その声にいつものような覇気は無いが、当然のように言い放たれる時任の言葉に彼が普段、どれだけ久保田に甘やかされているのかを知る。

「ほら、おいで」

ベッドに座り直し手招きすれば、「子供扱いすんな」という言葉とは裏腹に時任が大人しく腕の中に収まった。
水気を含んだ髪をバスタオルで丁寧に拭いていると不意に滝沢の肩に重みが掛かる。

「どうした?」
「……ベッド貸せ」
「シャワー貸せって言ったり、ベッド貸せって言ったり。我儘な子だね」

それらは本来、久保田に向けられるべき物だ。
腹の底から苦々しい思いが湧き上がり、自嘲にも似た笑みが浮かぶ。

「貸すのはベッドだけでいいのかな?」

冗談とも本気とも付かない口調で問い掛け、そのまま冗談で済ませるか否かを時任自身に選ばせる。
どちらかを選んだ所でそれが彼にとって何の慰めにも救いにもなりはしないのだから。