since 2005年8月12日
容赦無く照り付ける日差しに『最高気温が連日30度を超え、』というキャスターの声が蘇る。
「あっちー……」
「暑いってね、夏はまだまだこれからじゃない」
今からそんなんじゃ、先が思いやられるなぁ。
隣りで歩きながら呆れたように笑う久保田に顔を顰める。
「しょーがねーだろ、暑いもんは暑いんだから」
そう言い返した瞬間、遠くの景色が歪んで見えた。
ああ、あの時もこんな蒸し暑い昼だった。
「ねえ、あんたこの前誠人と一緒に居た子でしょ」
雑踏の中、耳に纏わり付く様な声だった。
不躾なまでに絡み付く視線に、全身を撫でられる様な不快感。
一目でそれと分かる、風俗店の女。
胡散臭い。
「だれ?」
女は答えず、唇を歪めて笑みを浮かべた。
その目だけは異様な程冷たい。
「ねえ、貴方はどれだけ彼の事知ってる?私は知ってるわよ。優しくしてくれたから」
何を、なんて聞かなくても分かる。
「……それが何だよ。ちょっと久保ちゃんに抱かれたからって偉そうにさぁ」
ああもう、面倒くさい。
こんなのと関わりを持った久保ちゃんも久保ちゃんだ。
腹立たしいにも程がある。
「あんたに何が分かんだよ。優しくしてくれたって?笑わせんな」
吐き捨てて、不自然なまでに笑ったまま凍りついた様な女の目を覗き込む。
「久保ちゃんに愛されてもいないくせに」
「時任、どうした?」
久保ちゃんに呼ばれて、ふと我に返る。
見上げると隣りで心配そうに俺の顔を覗き込む久保ちゃんと目が合った。
その視線は何処までも優しい。
「具合悪い?」
「いや、へーき。ちょっとぼうっとしてた」
安心させる様に笑いかけて、腕を掴む。
「早く行こうぜ。久保ちゃん」