Valentine's Day

日中の陽射しは暖かくとも、まだまだ朝晩は冷え込む、そんな時期。

「さむ、」

起き抜けに感じた肌寒さに、まだ温もりの残るシーツに手探りでその体温を求めるも、見つける事が出来ずに重たい瞼を無理矢理引き上げる。

「……久保ちゃん?」
「あれ、おはよ」

うっかりすれば今にも閉じそうな視界の端に捉えたのは、バイトにでも行くのか着替えている久保田の姿。

「どっか行くのか?」
「うん、鵠さんのとこ」
「俺に断り無しで出掛けようなんざ、いい度胸じゃん」
「だって、良く寝てたし。起こさない方が良いかと思って」

そう言いながら温かさを確かめる様に頬を撫でる手を掴むと、その腕ごとベッドの方へと引き寄せる。

「こーら、離しなさいって。襲うよ?」
「襲ってみろよ、ほら」

どうぞ?と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる時任に一瞬、揺らぎそうになりながらも宥める様にその手を外させる。

「やっぱダメ。本当に行けなくなりそうだし」
「あっそ」

時任も言ってみただけなのか、久保田の手が離れた瞬間に冷気を遮断するように布団を被り直し、顔近くまで深く覆ってしまう。

「良い子にしてたら、帰りにいいもの買ってきてあげる」

聞いているのか聞いていないのか、静かな寝息をたて始めた時任に肩を竦める。

「オヤスミ」

Valentine's Day