誰も居ない事が、当たり前だったのに。

【deficiency】

徹夜で代打ちのバイトをして、帰り着くなりベッドに倒れ込んだ。
と同時に煙草がリビングにしか無い事に気が付く。

「あーもう、」

我ながらイラついてるなぁ。
まるで他人事の様に感じて苦笑が浮かぶ。
最後の気力を振り絞って、一度横たえた身体を起こしリビングに向かう。

時任は、居ない。

それを確認して、煙草に火を付ける。
最近親しくなったらしい老人と飼い犬の散歩に付き合うのだと、明け方近くにメールが届いた。
この部屋の中だけでは無い、外の世界に目が向くのは良い事だとは思う、けど。

「俺が参っちゃうかも」

なんて。
身体はそれなりに疲れてはいるし、意識はドロドロ。
なのに、やたら広く感じるソファーに横になった所で眠れやしない。
諦めて何本目かの煙草に火を付ける。

帰って来たら、煙たいと怒るだろうか。

ふとそんな事を思いながらも換気の為に窓を開ける気力すら無く。
ただただ、白い煙で肺を満たした。