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忙しい昼時を過ぎ、漸く店内が落ち着きを取り戻した頃―

「いつまでもグズグズしてんじゃないわよ……早くしろっ!」
「申し訳ありません!」

客も疎らになったファミレスの広い店内の一角に東条組代行、関谷の一喝した声と、部下らしい人間の慌ただしい足音が響く。
突然の騒ぎに何事かと振り返る客や従業員達に混じり、偶然にも居合わせた時任もまた顔を上げていた。

「あら……」

関谷自身も自分達に向けられた顔の中に見知った時任を見つけると、周囲の視線を物ともせず悠然とした足取りで時任が座る席まで歩を進めた。

「久し振りね。見苦しい所を見せちゃったわ」
「……俺に何か用かよ」
「用、ね。それならあなたに聞きたい事が山ほどあるけど……」

不意に身体を屈めて自分に近付く関谷に時任は咄嗟に身構える。

「やーね、そんな恐い顔しないでちょうだい。何もしないわ」

さすがに店内という事もあってか、関谷も表立った行動に出るつもりは無いらしい。

「折角偶然会ったんだもの。今日位は仲良くしましょ?」

時任に歓迎するつもりは微塵も無いが、わざわざ席を立ってまで事を荒げる必要も無い。
関谷は満足そうに微笑むと、時任の正面の席につき優雅な所為で足を組んだ。

「いいのかよ、あんたの部下を放っておいて」
「いいのよ。少しは自分の頭で考えて動いて貰わないと、ただのゴミと同じだわ」
「それでも、あんたに忠実な部下なんだろ?扱いが楽そうで羨ましいぜ」
「あなたにだって久保田君っていう素敵な忠犬が居るじゃないの」
「あいつの何処が忠犬なんだよ。反抗的な態度ばっか取りやがって苦労するぜ。どっちかっつーと、駄犬だな」
「あらあら。でも、反抗的なペットを躾けるのも楽しそうね」

関谷はテーブルに着いた肘に凭れると、視線を上げ時任の顔を覗き込んだ。

「私にも貸してくれないかしら?」
「やだよ、久保ちゃんが穢れる」
「穢れるだなんて、失礼しちゃうわ。ま、私も他人の食べ残しを漁るような下品な真似をする気はないけど、」

不意に関谷が言葉を途切れさせたと同時に、時任の携帯が鳴る。
ディスプレイには「久保ちゃん」と表示されていた。
時任が関谷の目を追って外に視線を向けると、入口近くで何気なさを装いながらも二人の様子を窺う久保田の姿があった。

「ほら。やっぱりあなたの忠犬じゃない」

時任は関谷の言葉には答えず、久保田に向かって軽く手を上げると席を立つ。

「じゃ、俺もう行くわ。っと、そーだ」

去り際に時任が関谷を振り返り、にやりと笑う。

「勿論、ここはあんたが払ってくれるんだろ?」
「……あなた意外と図々しいのね」
「あんた程じゃねーけどな」

鰾膠も無い時任の言葉に関谷は肩を竦める。

「いいわ、どうせ組のお金だもの。交際費って事にでもしておくわ」
「そっか、サンキュッ」

時任はもう一度、今度は屈託のない笑みを浮かべると、そのまま振り向く事無く真っ直ぐと久保田の元へと駆けて行った。

「いずれ返して貰うわ……たとえそれがどんな形でも、ね」

今はせいぜいWAの情報を追いかけていればいい。
私の為に。