since 2005年8月12日
「どこ行っちゃったかなー」
たまにはいつもと違う場所に行ってみたい。
そんな些細な要望に応えて、時任は知らない、自分はそれなりに見知った街の中。
キョロキョロと周りを見回しながら歩く時任の姿に危なっかしいとは思ってたけど、まさか本当に逸れるなんて。
しかも今日に限ってあいつ、ケータイ忘れて来るし。
「何処が一緒に居るから大丈夫だろ、何だか」
悪態を吐いてみた所で、状況が変わる訳でも無く。
子供じゃないんだから、最悪会えなくても家にだって帰れる訳だし。
そもそも鍵は時任が持ってるし。
駅の方に足を向けかけた瞬間、ふと感じたのは自分が良く知る匂い。
何気なく視線を向けると、見知らぬ男のすぐ後ろをふらふらと頼りなく付いて行く時任を見付けた。
なんだかなぁ。
そっちじゃないでしょ?
「どこ行くの?」
街中であろうが何だろうが気にしない。
捕らえた手首を強めに引いて、よろけた時任を抱き寄せる。
「あー、久保ちゃんだー」
「何それ」
まったく、人の気も知らないで。
「もう帰るよ」
お前放っておいたら、何処に行っちゃうか分からないから。
僅かばかりの嫉妬を体の良い言い訳で包み隠して、離れて行かないように手を繋いだ。