きみの気まぐれすら僕には愛しくて

手を伸ばせば届く場所に煙草と灰皿とテレビのリモコン。
二つ並んだマグカップからは淹れ立てのコーヒーの良い香りが立ち上り、傍らにはこの状況を作り出した時任が凭れる様に寄り掛かり、触れ合う箇所から心地いい体温が伝わる。

「最高の気分だぁね」
「だろ?何たって、俺様が居るんだからな」

時任が上機嫌な様子で伸び上がり、再び凭れ掛かろうとした所で不意に眉根を寄せた。

「あ、」
「なに、どうしたの?」

渋い顔をした時任がローテーブルのやや遠くを指差す。

「失敗した。エアコンのリモコン」

指し示された先を目で追うと、エアコンのリモコンだけが少しばかり遠く、この場から一歩も動かず取るには難しい。

「取ろうか?」
「いい。ここに居ろ」

ソファーの端に丸まっていたタオルケットを引き寄せ包まると、時任が「これで良し」と満足気な笑顔を浮かべる。

「誕生日おめでとう、久保ちゃん」
「うん。ありがと」

8月24日。
365日ある内の、ほんの些細で幸せな一日。

Happy Birthday! (お題元:確かに恋だった)