since 2005年8月12日
「お帰り」
「あ、久保ちゃんただいま」
見上げる時任の目が妙に湿り気を帯びてる。
同時に嗅ぎ慣れない石鹸の匂いに気が付いた。
「あれ、シャワー浴びたの?」
「うん。滝さんトコで」
要するに、帰る前にシャワーを浴びなきゃいけない様な事をした訳だ。
逆算的に嫌でも連想してしまう。
あー胃が痛い。
煙草が欲しい。
しかし、さっき吸ったのが最後の一本だった。
失敗した。
思わず小さく舌打ちすると、聞き咎めたかの様に時任が振り返る。
「大丈夫だって。キスはしてねーし」
キスまでは浮気に含めない。
以前、自分が何かの流れで言った言葉だ。
まさか、キスさえしなければ何しても良いと受け取られるとは夢にも思わなかった。
「いや、違うけど」
何が違うんだろう。
舌打ちしたのは煙草が無かった所為だ、とも、そもそもキスの先に性行為があるんじゃないのか、とも。
「あー、うん。やっぱいいや」
面倒くさい。
ニコチンの切れた脳が考える事を放棄する。
取り敢えず。
「おいで、時任。口直し」
両腕を広げると、喜々として時任が飛び込んで来た。
ベッドに誘って素直にキスから求める時任に。
やっぱり訳が分からない、と思った。
お題元:確かに恋だった