常夜灯

煙草の煙で白くなった部屋。
空気を入れ換える為に開けた窓から入ってくる、穏やかな夜風が心地良い。

「なあ、」
「ん?」
「ちょっと、外に出てみねえ?」

常夜灯に照らされた夜道を二人並んで歩く。
近すぎず遠すぎない、名前を呼べばいつでも振り返られる、そんな距離。

「たまにはこーいうのも良いよな」
「そうだね」

特別、目的がある訳でもない。
目に付いた自販機で缶コーヒーを二つ買い、他愛無い会話をしながら、ただただ気の向くまま歩く。

「こーいう夜ってさ、」
「うん」
「たまに、どっか行きたくなるよな」

時任の遠くを眺めるような眼差し。
射抜かれた訳でも無いのに、心臓の辺りが酷く痛い。

「……勝手に居なくなったりしないでね」
「何言ってんだよ、久保ちゃん」

いつの間にか数歩先を歩いていた時任が、振り返る。

「何処だって久保ちゃんと一緒に行くに決まってんじゃん」

常夜灯の淡い光の下で、当たり前のように笑った。